書くことが苦手な子必見! ゴールから考えて記述する(文章編)
次の文章を読んで後の問題に答えてみましょう。
「うわー、すごくかわいいー」
木下さんが、以前渡しておいたアロエの写真を見て絵を描いてきてくれたのだ。画用紙にいろんなポーズをしたアロエが、まんがチックにかわいく、でもそっくりに描いてある。お腹を丸出しにして寝転んでいるアロエに顔を洗っているアロエ。空に向かって鳴いているアロエに、ちょうちょと遊んでいるアロエ。木下さんにわたした写真は、普通に座っておすまししている、ごくありきたりなものだったのに、どうしてこんなにたくさんのしぐさが描けてしまうのだろう。
「木下さんちも、猫、飼ってるの?」
「ううん、うち団地だからだめなの。本当は飼いたいんだけど」
「どうして描を飼ってないのに、こんなにいっぱい猫のしぐさとかわかるの?」
「うーん、なんでかなあ。知らないうちに覚えるっていうか、なんとなく描けるっていうか……」
すごい。やっぱり天才だ。
「鈴木さんも絵が上手だから、きっとこういうの描けるよ」
ううん、私には絶対描けない。目で見たままのものや風景を描くとか、頭の中でそうぞうしたものを自由に描くとかならなんとかできるけど、目の前にいなくて実在するものを、リアルに思い出して描くということは、絶対にできない。今、アロエの背中のトラもようを描けと言われても、私は途方に暮れてしまうだろう。アロエと毎日遊んでいるのにもかかわらず。記憶力がとぼしいのだ。ほんと私って冴えない。
「あれ、これ、さえちゃんでしょ?」
後ろからカナちゃんが、私の肩にあごをのせて絵をのぞきこむようにして言った。
「うん、そうだよ」
そう言って、木下さんは画用紙の左下を指した。
私はちっとも気がつかなかった。女の子が描いてあるのは、もちろんわかっていたけど、それが自分だとは思わなかった。
「うん、似てるー。そっくりじゃん」
カナちゃんが私の顔をまじまじと見る。
なんだか驚いた。自分の顔ってこんなふうなんだっていうか、他人から見る自分の顔はこうなんだ、っていう新しい発見。軽い衝撃、ちょっとしたあきらめ、くすぐったいような変な気持ち。
それはまるで水たまりに石を投げたときのように、私の心にボンと飛びこんできて、静かに力強く幾重にも波紋を広げた。「ひゅう、かわいいーさえちゃん」とカナちゃんが、学校で禁止されている口笛をちょっとだけ吹いた。
画用紙の左下で笑ってピースサインをしている女の子は、かなりデフォルメされていて、大きすぎる目と大きすぎるロと大きすぎる耳をもっていたけど、とても愛らしく見えた。自分では、本当に似ているかどうかわからない。
「ねえ木下さん、あたしの似顔絵も描ける?」
カナちゃんがそう言ったとたんに、木下さんはノートにすらすらと簡単に、あっというまに描いた。
やっぱり天才だ。木下さんから見た私とカナちゃん。きっと、木下さんじゃないほかのだれかが私たちの似顔絵を描いたら、またぜんぜんちがう感じになるんだろうなと思った。他人から見た自分の顔。それはとてもややこしい。だってなんだかそういうのは、見た目だけじゃない気がする。
宝物箱には、大切なものがたくさんつまっている。浜辺で拾ったきれいな貝や波で削られて丸くなった色とりどりのガラスのかけら。 いとこのお兄ちゃんにもらった星の砂や、お父さんが酔った勢いでくれた昔のお金。お姉ちゃんが作ってくれたビーズの女の子や、道 端で拾ったきれいな白い鳥の羽根。
それと、二年生のときの担任の橋本幸恵先生からもらった、黄色の色画用紙で作られた賞状。クラス全員ひとりずつに幸恵先生が作 ってくれた。
私のは、『そうぞうの魚が上手に描けたで賞』だ。二十四色の絵の具を全色使って、水色の羽根がついたピンクの魚を描いた。まつげの先端にハートや星やクローバーのもようまでつけてあげた。探せば押し入れの中に入っているはずだ。
―そうぞうの魚がじょうずに描けたで賞。鈴木さえさま。あなたは、図工の時間にかいたそうぞうの魚を、クラスのだれよりもたの しくゆかいに、そうぞう力をはたらかせてかいてくれました,これからも、そのきそうてんがいなアイデアで、すてきな絵をたくさんかいてくださいね。はし本ゆきえ先生より―
読んでいて自然とため息がもれた。私はもう自分で知っているのだ。ピンク色の魚を、まつげにハートがついた魚を、今の私はもう 描けないことを十分に知っているのだ。 私が四年生のとき、幸恵先生はお腹が大きくなって学校を辞めた。幸恵先生は今何をしているだろう。赤ちゃんは大きくなったことだろう。
幸恵先生ごめんね。私はなんだか申し訳ない気分になって、声に出して謝ってみた。
問題
傍線のように「謝ってみた」のはなぜですか。これまでのさえの心情から考えて答えなさい。
ゴールから考えて記述する方法は以下になります。